南部の土砂
ボールペンの芯
芝憲子
小学校に入学したとき
母が
新しい鉛筆をナイフで
それはそれはきれいに削ってくれた
それから削り方を教えてくれた
はじめデコボコでまるできたなかったが
だんだん上手にけずれるようになった
芯は紙の上に立ててナイフでとがらせた
なんとかできるようになるとうれしかった
ナイフもいつも筆箱に入れた
中学生のころ
社会党の党首 浅沼稲次郎が
一七才の少年に刺されて亡くなった
学校にナイフを持ってくるのが禁止された
いま
鉛筆も万年筆もほとんど使わなくなり
なんでもボールペンだ
ガマフヤーの具志堅さんは言う
南部の土砂から
人の骨を取り出すのはむずかしい
政府が「業者にさせる」と言った段階で
すでに遺骨を区別する気がないのだ
土砂をショベルカーですくって
骨を取り分けられるはずがない
慣れた人がていねいに見てもむずかしい
子どもの指は
ボールペンの芯ほどの細さだ と
細い 軽い 子どもたちの骨
お母さんと手をつなぎ
鉛筆をもちたかった指 指 指
書けなくなったボールペンを捨てるとき
透き通った芯が
きゅっと 音をたてる気がする
(『1/2』第64号より 2021.6月 )
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