南部の土砂

NORIKO

2021年06月19日 20:51

ボールペンの芯
                  芝憲子


小学校に入学したとき
母が
新しい鉛筆をナイフで
それはそれはきれいに削ってくれた

それから削り方を教えてくれた
はじめデコボコでまるできたなかったが
だんだん上手にけずれるようになった
芯は紙の上に立ててナイフでとがらせた
なんとかできるようになるとうれしかった
ナイフもいつも筆箱に入れた

中学生のころ
社会党の党首 浅沼稲次郎が
一七才の少年に刺されて亡くなった
学校にナイフを持ってくるのが禁止された

いま 
鉛筆も万年筆もほとんど使わなくなり
なんでもボールペンだ

ガマフヤーの具志堅さんは言う
南部の土砂から
人の骨を取り出すのはむずかしい 
政府が「業者にさせる」と言った段階で
すでに遺骨を区別する気がないのだ
土砂をショベルカーですくって
骨を取り分けられるはずがない
慣れた人がていねいに見てもむずかしい
子どもの指は
ボールペンの芯ほどの細さだ と

細い 軽い 子どもたちの骨
お母さんと手をつなぎ 
鉛筆をもちたかった指 指 指

書けなくなったボールペンを捨てるとき
透き通った芯が 
きゅっと 音をたてる気がする

  (『1/2』第64号より  2021.6月 )

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